昭和56年11月下旬のこと、茨城県M市に住むH子さん(30才)が長男のK君(4才)と一緒に来訪されました。事前の電話でK君の夜泣きがひどいので手当てして貰いたいとのことでした。
対面してからお話を伺いますと、4日前から急に泣く様子が異常で、夜泣きがひどくなり、昼間も泣いてばかりいるとの由でした。医師の診断をうけましたが別に何でもないといわれたとのことでした。
私は念のため、母親のH子さんの健康状態を伺いましたところ、実は自分も2年前から腰痛がひどく、今も右の腹裏が痛んでいて掃除機も使えない状態だというのです。
今春には腰痛が起り、病院では診て貰ったところ腸が癒着しているということで1ヶ月余り入院していましたが、少し軽快になったことと担当医が急逝したことから退院し、治療中断の様な形でそのままになっているということでした。お腹の方も押すと固くなっていて痛むというのです。
さらに大変ひどい冷え性になってしまい、夏でも長靴下をはいている始末で、スカートになれないのでスラックスをはいて過ごしているとのことでした。自分自身がこの様な状態であるから子供のK君に泣かれると精神的にも肉体的にも大変辛いという訴えでした。
私はここで、K君のことと母親のH子さんの症状の間には霊的に共通の関係があるのではないかと感じました。そしてまた、霊査に関してK君は幼いために直接霊査が不可能なこともあり、母親による代理霊査をおこなわねばならないことから、母子の霊状を同時的に調べることが重要であると考えました。
私はこれらのことをH子さんに説明して、出来得るべく親子の治療を併用的にすすめることが賢明であり得策であることを理解願ったのです。H子さんはこのことを全面的に了解して、二人ともよろしく願いますと申されました。
そこで、例の様に私はH子さんに先祖霊のことを伺いました。H子さんは家の娘で主人はムコ入りされた方です。父母は健在で、祖父は長寿の老衰死、祖母は40年前にリウマチで若死したとの由でした。
ここでH子さんによって霊査をおこないました。H子さんは霊的に敏感な体質の方で、憑依している霊がすぐに浮霊して参りました。手が震え、瞼がけいれんする様に激しく動きました。K君は傍でおとなしく遊んでおりました。私は浮霊した霊に向かって質問をはじめました。「H子さんにでてきた霊さんはご先祖様ですか?」。この問に対してH子さんは否定も肯定もせずに同じ様な霊動を続けておりました。「あなたはお年寄りですか?」。特に反応はありません。「あなたは中年で亡くなられた方ですか?」。霊動は激しさを増しましたがこと更に応答らしいものはありませんでした。
「ご霊さんは子供でしたか?」。この問に対してH子さんの眼から涙があふれ、手の霊動は急に激しくなり、首を何回も何回も肯かせたのでした。子供?。私はいささか疑問に思いながら一時霊を鎮静させて、H子さんに中間で質問しました。「若しかしたら水子があったのではありませんか?」と。H子さんは「ありました。3年前に一人ありました」との返事でした。
私は再び霊査を続けました。そしてH子さんに浮霊した霊に向い、「あなたはこのお母さんの子なの?」と質ねました。この間にH子さんにあらわれている霊は大きく肯いたのです。続いて幾つかの質問をしました。「あなたはお母さんにずっと憑いていたの?」。H子さんの首はうなづく。「あなたはお母さんの腰についているの?」。またうなづく、「あなたはお母さんのお腹にも憑いているの?」。うなづく。「では、お母さんの腰やお腹が痛いのはあなたのせいかね?」。うなずく。「お母さんの足が冷たいのもあなたが憑いているためなの?」。この質問には軽くうなづく形でありました。
さらに、「それでは、K君にもあなたは憑いているの?」。霊は打震えながら大きくうなづいたのでした。「では、K君に夜泣きさせたり、昼間も泣き続けさせたのはあなたの何かの知らせだったのかね?」。霊はうなづき続けたのでした。「あなたは淋しかったんじゃあないの?お母さんに甘えたかったんじゃあないの?」。この水子霊はうつむいたままの状態になり、今の心情をあらわしている様に思いました。
「よく判りました。赤ちゃんのご霊さん、あなたを楽にしてあげましょう。あなたが浮かばれる様に神様にお願いして、よく浄めてあげましょう。その間お母さんにしっかりつかまっていなさい」。このように語りかけて霊査を終了したのです。
霊査を終り第一回目の治療にとりかかりました。治療は母と子を同日に別々におこないましたが、この事例では母の治療について述べ、子供のK君の治療については省略することにします。ただ結果についてはのちほど簡単に述べたいと思います。
H子さんの治療第一回目は聴取や霊査に時間をとられたこともあり簡単に痛みの部分である腰、腹を後方と前方から浄めました。治療についてはとくに変ったこともなく終了しました。
第二回目の治療は4日後におこないました。腰、腹、足を主として全身の浄めを丹念におこないました。治療がすすむにともない、腰痛が少しづつやわらいでくる感じがして気持ちがよいと言われました。腹部の集中的な治療の時はお腹の中に暖かい感じがすると言われました。また、足の浄めの時はスースーと掃き清められる感覚があると申されました。浄めのあと腹部の凝りが幾分柔らかくなって、押えても痛みが軽くなった由でした。
第一回浄めの翌日、K君は父の実家に泊りに行った夜は泣いたが、自分の家に帰ってからは2日間は昼も夜も泣かず、久し振りに外へでて友達と遊んだということで、顕著な変化がみえはじめました。
第三回目の治療は翌々日におこないました。H子さんの浄めは前回通り腰、腹、足を中心に治療しましたが、右半身の痛みを訴えましたので、右半身を全体的に浄めました。この治療でH子さんは著しく痛みの部分が軽快になり、大変楽になったと喜んでおりました。
K君の方も二回目の治療後は益々元気になり、夜泣きはまったくせず昼は元気よく外で遊んでいるというのです。すっかり健全な姿になった様に見えるとの由でした。
第四回目の治療は翌日おこないました。治療に先立ってH子さんの状況を伺いますと、昨夜は足がホカホカ暖まり、11月下旬というのにフトンを一枚はいだというのです。また、昨夕から腰痛も消え去ってしまい、わずか一週間ばかりの間の変化に驚いているということでした。腹部の痛みもかなり強く押しても痛みがないというのです。
私は今日第四回目の治療でおよそ終了になるのではないかと考えました。そして丹念に浄めをおこなったのです。浄め中、H子さんの足が大変暖かくなり、暑い位になったと言われ、二年余り続いてきた冷え性が消失してしまって、何とも言えない快い気分ですと申されました。腰の痛みは全然なくなり、腹痛も忘れ去ってしまった。嘘の様な気分ですと申されました。また、どうしてこうなるんでしょう。全く不思議なことですとも言われ、私の説明にも判った様な判らない様な表情でうなづいておられました。
私はこの様な母と子の状況をみて、治療の終了を告げました。水子霊を母と子から離脱させる部分をあえて省いたのです。それは水子霊を母から分離するまでもなく、母と子が急速に元気になったことと、母が水子霊のために熱心に供養をはじめたことから、このままの推移で水子霊は充分に成仏するであろうという確信を持ったからであります。
帰り際に、その後変ったことがあったら何時でも連絡をくれる様にと申し添えて別れましたが、その後はこと更な連絡もなくすぎました。何事も起こらず順調な経過をたどっていると思われました。
それから20日ほどしてH子さんから電話がありました。何事かと思いましたが、自分の方は母子とも大変快調で痛みは消失したままであり、K君もすっかり元気になっているとのことでお礼を申されました。そして、今日電話したのは自分の従妹が長年身体に痛みがあるので、近日中に相談に伺わせたいからとの由でありました。ご自分の経験から身内の方の幸せを願っての行動を開始されたのでした。H子さんは確実に霊障を克服したのでした。
神通霊能者 笹本宗園著 「霊障からの救い」より引用