-本話は心霊相談(霊能相談)のご依頼者に正神崇敬会初代会長の笹本宗園が、霊能者として自身の霊能開発に取り組んで初期の頃の古典的な『霊術』を駆使しての事例紹介です。
いくつかの段階をへて『霊術』は、(あらゆる宗教の源流である)古神道の神々様から厚い守護(加護)を賜り、祈願お祓いの強力な浄化力を発揮する正神崇敬会独自の『神法』へと進化を果たしました。
笹本宗園の神の道の教えと『神法』を継承した神通霊能者の現会長の笹本宗道は、使い方によってはもろ刀の剣にもなりかねないそれを、強力なお祓い(浄霊除霊)の浄化力と安定性を両立して発揮し続けられる『宇宙神道の神法』へと昇化させて、悩み相談・心霊相談・病気平癒・運命の改善強化・心願成就の取次ぎに参られる皆様の改善・解消・解決を目的として神に奉職いたしております-
風もさわやかになり始めた5月の初め、K市に住む矢沢ハナさん(仮名・85歳)の案内によって、ハナさんの近所に住む宮川ヨネさん(仮名・75歳)が霊能相談で来訪されました。ハナさんとヨネさんは若い頃から大の仲好しで、老境に入った現在でもその友情は少しも変わらないで、面倒を見あったり、お互いのことを心配しあったりしている間柄だということです。
ハナさんは、85歳という高齢にもかかわらず非常にお元気で、明朗な性質の方です。嫁ぎ先のしゅうとめが甚だ厳しい人であった由ですが、良く辛抱してつとめ上げたという苦労性で物分かりのよいおばあさんであります。今でも針仕事ができるといういたって健康な方でもあります。他方、ヨネさんの方は75歳でハナさんより10歳も年下のわけですが、色黒で背をまるくして坐っている感じは置きものの狸の姿そっくりで、ハナさんとあまり年の差を感じさせない様に見えました。
ハナさんは私の所の常連である小川さん(仮名)の親戚で、時折運命相談に来訪されていて、今度はヨネさんを紹介ということで見えたわけです。ハナさんは日頃の親友であるヨネさんが長年の間、手や腰の痛みで困っていることから、霊能者の神霊治療というもので何とかなるのではないかと考えて、まずは調べて貰おうと案内して来たというのです。ヨネさんはハナさんが紹介する間は一言も言わず神妙に控えておりました。大変静かなおとなしい人だなと思っておりました。しかし話を始めると次第に地がでて来て大変面白い人であることが分かりました。まず経過を伺いました。
ヨネさんの語るところによりますと、今から二十余年前、50歳頃から急に両手と腰に痛みが生じて身体が不自由になり家事や仕事(農業)にも差し支えがでて来てしまったというのです。それ以来、今日まで方々の医者にかかったり、ハリ・キュウ・指圧・アンマ・カイロプラクティック・漢方薬・湯治など片っ端しから試みて来たとのことでした。しかしどの療法にもこれといった効果も見られないまま長年痛みをこらえて不自由をかこちながら現在にいたったというのです。今も毎日医院に通って両手に注射を打って貰っているということで、私の前に見せられた両手の甲は一面に黒紫色に変色しており、所々は黒褐色を呈していて、人間の皮膚の色とは思えない異様な感じでした。毎日注射をして貰っても楽になるわけではないが、治療を受けないと不安な気持ちになるので何となく通院治療を受け続けているというのです。この頃ではお医者さんが注射針をさす際に手の甲が固くなっているために注射部位を選ぶのに苦労している状態で、針もうまく入らないのでさしたり抜いたりやり直しをするために大変痛くて、毎日の注射自体も大変苦痛の種になっているということです。
ヨネさんの着物の袖をずり上げると、手首から肘へかけてキュウ跡が黒々と残っていて、人の手というよりも古木の枝という感じです。「大変ですね」と声をかけると、「慢性になっているから平気ですよ。着物をぬぐと身体中キュウの跡で真っ黒けですよ」と答え、更に続けて「これじゃあ身体ごと焼いて灰にしてしまわないと治らないでしょうね」と冗談をたたきます。ハナさんが横から、「色々治療をやったんですが治らないので霊のサワリでもあるんじゃあないかと思ってつれて来たんです。どんなもんか調べて貰いたいんです」と口添えされました。
ヨネさんに正座を指示しましたが腰痛のためによく坐れません。両足を開いた間へ尻を落とすように坐ります。合掌、瞑目して頂きます。
霊査に入って十分程経過しました。ヨネさんの眼球が左右に動いて眼が微動をはじめます。やがて、合掌した手の指先が離れないままの状態で指が内側に曲がりはじめ、指の間が次第に開きはじめます。狸霊の特徴です。
私はおもむろに語りかけました。「ヨネさんに憑いているのは狸の霊さんだね」するとヨネさんの首が前へ大きくうなずいたのです。
「狸さんは長い間ヨネさんに憑いていたのですか」ヨネさんはまたコクリとうなずく。 「あなたはヨネさんが好きなのかね?」更にうなずきます。 「狸さん、あなたは手や腰が痛いのかね?」 ヨネさんの首はまた大きくうなずきました。
「ハハァ。ヨネさんの手や腰の痛いのは元々は狸さんの痛みなんですな。痛いあなたに憑かれているからヨネさんの身体に痛みを滲みだしてくるんだね」 ヨネさんは小さくうなずきました。 「狸さんは若いのかね」首は動かない。 「それでは年寄りですか?」ヨネさんはうなずきます。「あなたは女ですか?」またうなずきます。 「あなたは生前どこに住んでいましたか?K市ですか?」 ヨネさんの表情は目をしばたいたまま不動。「昔はK市ではなかったから、T村ですか?」ヨネさんはうなずきました。
「T村のどこさ」ハナさんが傍から声をかける。 「○○川べり?」 「○○峠?」ヨネさんは動かない。 「○○山?」 まだ動かない。 「それじゃあ○○越?」ヨネさんの首は大きくうなずきました。
ハナさんの注釈によれば○○越というのは、昔から茅(しば)山で家屋が茅葺屋根であった頃は大変貴重な資源供給の山で、秋になると部落の人達が総出で茅刈りにでかけた山であり、ハナさんも二十年くらい前までは毎年行っていたものであること、そこには昔から狸が住んでいたという話があったことなどを物語られたのでした。
「○○越の狸さん、あなたはおばあさんで手や腰が痛いわけだね」と念を押すとヨネさんの首はうなずきます。 「あなたは人に殺されたの?」と聞く。ヨネさんの首は少し左右に動く。人手にかかったのではないらしい。 「人に恨みはあるの?」首は左右に動く。 「あなたは老衰で死んだのかね?」ヨネさんの首は大きくうなずきました。 「それではあなたはヨネさんに頼って、ヨネさんの身体の中に入って痛みをやわらげているのかね?」と私。ヨネさんはうなだれて、うつむいたままです。
ヨネさんと合掌した両手は双方からおにぎりをつかんだ様な恰好のままで、狸の姿に似て何とも言えない滑稽さと哀憫を感じさせます。
「狸のおばあさん、あなたの痛みを早くとってあげましょう」と私は人間に対すると同じ気持で声をかけました。
ヨネさんを臥寝させてお祓い浄霊の心霊治療に入ります。痛みの部位である腰部を後ろから一時間程集中的に心霊治療します。あと仰臥させて前から腰部を十分程お祓い浄霊治療します。お祓い浄霊治療の進行に伴ってヨネさんは不思議に楽になってゆく感じがすると言われました。腰部お祓い浄霊治療のあと、約50分程、両手のお祓い浄霊治療に入り手の甲と手首を浄化します。手の方もお祓い浄霊治療の進行に従って心なしか軽くなってゆくとのことでした。こうして二時間、第一回目のお祓い浄霊による心霊治療を終わりました。
ヨネさんは翌日再来して第二回目のお祓い浄霊治療を受けました。腰の痛みは第一回目のお祓い浄霊治療で消失してしまい、今日は何ともないということでした。自分でも妙なくらい痛みがないので不思議だというのです。「狸が先生にバカされてしまったのかな」といってカラカラと笑うのです。また一緒に見えたハナさんも、「狸もヨネさんも一度に治っちまったんだ」と言って、身体をよじりながら楽しそうに笑いこけるのでした。
難病の腰痛が一回の神霊治療(心霊治療)の施療で治ったというヨネさんの喜びと、紹介の労をとったハナさんの心配甲斐があったという喜びと、狸という誠に奇妙な霊の介在によってなされていたという筋書がたまらなくおかしいものに思えたのでしょう。
「今日は手だけお願いします」というヨネさんの言葉に促されて、坐ったままの形で手首・手の甲・指の一本一本を丹念にお祓い浄霊治療します。ヨネさんは時折手のひらを握ったり開いたりして自分の感覚を確かめています。固く凝って聊(いささ)か曲がり気味だった指が次第に柔かくなり、真っ直ぐに伸ばせる様になり、しこりが次第にとれてゆきます。手の甲の脇も張りがとれて弾力性を増してゆくのがわかります。二時間のお祓い浄霊治療が終わる頃にはコリコリになっていたヨネさんの手は、柔軟な弾力性をとり戻して指の運動も伸縮自在となりました。 「不思議なこともあるもんだ」とつぶやくヨネさんに私は、「もう一度くらいやればよいでしょう」と言って帰しました。
翌日、ヨネさんは独りで来訪されました。 「さあ、ヨネさん今日は仕上げをしましょう」と私は声をかけます。ところが、ヨネさんの対応は、「今日は先生神霊治療はいらないですよ。お礼に上がったんです」というのです。「手の方も本当に何ともなくなってしまったんです。これこのとおりです」と言いながら両手を上に伸ばして指を伸縮させながら笑うのです。「二十何年も痛かったのに、どうして治っちまったんでしょう」ヨネさん本人も現実に治ってしまったことと、自分の観念のギャップに半信半疑の気持ちですと言うのでした。
暫く経って来訪したハナさんの話によれば、ハナさんやヨネさん達で組織している部落のお念仏会のお婆さん仲間のあつまりでいつもヨネさんにまつわる「狸物語り」が話題の中心になっているということでした。K市のH地域にもう一つの名物語ができたというのです。
神通霊能者 笹本宗園著 「霊能開発の旅路」 より引用