「桃の節句祭に思いをよせて」
静岡県のT・Y様
拝啓 庭の白梅が満開となり、毎日めじろが蜜を吸うためにやってきます。もうすぐ春ですね。
あっという間に二ヶ月過ぎてしまいました。
桃の節句が近づき、有田焼の小さなお雛さまと土雛と土鈴の雛の三組を教室の戸棚に並べ、春駒と、手造りの椿と桜の布花を添えて飾りました。久しぶりに女の子になった気分を味わいました。
私には雛まつりの思い出が沢山あります。子供の頃のお雛様は沢山あって、出すのも片付けるのも大仕事でした。中でも「奉公さま」と言われた市松人形は三体あり、特に自分と同じ背丈ほどもあった人形は、昔ははだか人形でしたので、母はひな祭が近づくと夜なべで着物を縫って仕上げ、まずその人形に着せて飾りました。ひな祭りが終るとその着物は私に着せました。小学校(当時は国民学校と言った)になると、私の七才の七五三の晴着をそのおひなさまに着せて飾るのが私の仕事になりました。そしてひな祭りのもう一つのたのしみは、駅前に一軒だけあった洋菓子やさんのシュークリームを買ってお供えしてもらうことでした。当然、それは次の日に私のおやつとしていただけるたのしみにつながっていました。洋菓子などめったに食べられない時代でしたので、当時の子供にとっては、一大イベントだったのでした。
ところが、その夜、シュークリームはねずみにかじられてしまい、私は次の朝悲しくて大泣きをした覚えがあります。
こんな思い出一杯のひな祭り。私は今でも、ひなあられと一緒に必ず、カスタードクリーム入りのシュークリームを供えます。
七十数年前のなつかしい思い出です。幼い頃の夢は生涯続きますね。八十才になっても、ひな祭りにはシュークリームなのです。
ねずみへの恨みは今も続いているのです。今はねずみに食べられることはなくなりましたけれど。
さて、桃の節句祭も参加できませんので、遠隔のお祓いでお願いします。
左足の治療の方はなかなか手間がかかり、今だにむくみがとれていません。仙人のような風貌の先生から、お嬢さんと呼ばれ、苦笑しながらヒアルロン酸の注射に顔をしかめる私は、それでも根気よく通院しています。
桜の花が散る頃にはこのむくみもとれるかも知れないと気長に治療する覚悟をしました。一度は、余りにも痛みが強いので、手術まで覚悟した位ですから、そのことを考えれば軽い治療といわねばなりません。
今年からは、もう若くないということを自覚する為に従来の数え年で年令を言うことにしました。そうすると今年八十才ということになります。
クリニックの先生には人間は気持のがんばりが大事と言われています。つまり自覚と気概の両方が必要です。
今回のつまづきで気付いたことです。
桃の節句祭、御盛会でありますように。
二月二十八日
かしこ
笹本宗道様