ふだんは”カラスの行水”なのに、その日に限って、妻のI子さんが長風呂をしている。めずらしいことがあるものだと思いながら、ご主人は寝ころがってテレビを見ていた。番組が終わったところで時計を見ると、妻が風呂に入ってすでに40分もたっている。
(もしや……)
胸騒ぎを覚えて風呂場へ行ってみると、洗い場でI子さんが蛇口を握ってうずくまり、息も絶え絶えに苦悶の唸り声をあげていたのである。蛇口からは水が出っ放しになっていて、洗い場は水溜まりになっていた。ご主人は急いで水を止めてから、氷のように冷たくなったI子さんの体をバスローブでくるんで脱衣所に寝かせ、救急車を呼んだ。このときは水に浸かって可哀相にと思ったご主人だったが、あとになって、蛇口から出ていたのが水でよかったことを医者に知らされる。
「あれがもしお湯でしたら、血圧が急上昇して奥さんは助からなかったでしょう」
と、医者はI子さんの運の強さに感心した。
さらにI子さんが幸運だったのは、救急車で運ばれた病院が、脳外科では定評のあるT病院であったことだ。ストレッチャーに載せられたまま、I子さんは手術室に運び込まれた。I子さんのご主人から宗道会長に電話がかかってきたのは、そのときであった。
「……これから手術が始まります。どうか助けて下さい」
最愛の妻を案じる悲痛な叫びであった。
ご主人は正神崇敬会の会員で、胃の具合が悪いときに何度か相談に来て祈願お祓いと浄霊の取次ぎを受ける程度の、あまり熱心な会員ではなかったが、宗道会長はもとよりそんなことにこだわる人ではない。すぐさま神様に祈願お祓いと浄霊を取次ぎ、同時に〈神気充電〉をI子さんに施したのである。
数時間に及ぶ大手術であったが、I子さんは一命をとりとめたのだった。
手術後2ヶ月ほどで退院したI子さんは、ご主人に手を引かれて正神崇敬会にやって来た。後遺症のため足が不自由で上がらず、踵をひきずるようにしている。待合い室から神前まで、ふつうの人ならものの数秒のところを、I子さんはたっぷり2分はかかった。
ところが、神様に病気平癒を祈願し、お祓いをし、さらに〈神気充電〉をしたその帰り道のことだ。ひきずっていた踵が上がるようになっていたと、ご主人から息せき切ってお礼の電話があったのである。I子さんがちゃんと歩けるようになるのは、それから間もなくのことであった。
大石隆一 著 「日本を代表する超常現象家」より引用